わかる株式用語
先物主導とは(さきものしゅどう)
まずはざっくり
先物主導とは株式市場が大きく変動した時の価格変動理由としてよく使われる言葉です。
「先物主導で日経平均は大きく上昇」などといった言葉を日経新聞の株式欄で目にしたことのある方も多いと思います。
一般的に先物主導の「先物」とは大証の日経平均先物を指すことが多いです。
日経平均が大きく上昇したり、下落した時に、その理由として「先物主導」という表現を使うのですが、実は結構曖昧な言葉です。
市場関係者や解説者が相場変動の理由を理論的に説明することが難しい時などに、ワイルドカードのようにこの先物主導という言葉を口にしている場合も見受けられます。
先物主導といっても、日経平均が下がったり上がったりする理由は、必ず別に具体的な理由が存在します。つまり先物が果たす役割は変動幅を大きくすることです。
例えは日経平均が一日で500円上昇した日があったとしますと、その理由として「金融緩和期待」、「GDPが予想を上回った」、「海外市場が大幅に上昇した」など前段階の上昇理由があります。
しかし、その理由では「ここまで大幅な上昇は説明しにくい」といった時に、「先物主導」が登場します。
つまり日経平均が500円上昇した理由のうち先物が主導したのが100円分かもしれないし300円分かもしれないわけで、上昇分のうち先物がどのくらい影響したのかを厳密に検証することはできません。
ですから使っている本人も細かい説明は抜きにして「先物主導」を便利な言葉として使っているように思います。
これだけは覚えよう!
■それでは、どうして先物主導が起きるのか考えてみましょう?
まず先物主導を現象面からみると、市場で何が起きているのでしょうか?
上昇時を例に、簡単に言いますと日経平均先物がまず買われて、次に現物である日経平均が買われるという順番になります。
日経平均先物が買われると、なぜ現物が買われるのかについては、先物と現物の間の決まりごとが原因となります。
つまり、【先物価格は満期のとき現物価格と同じになる】
この決まりごとが裁定取引などいろいろな取引形態を生みだします。
先物が現物価格より高くなるということは、
12月28日 9:15 先物価格 10600円(満期1月11日)
現物価格 10500円
といった状態になっていることを言います。
(現実にはこんなに開くことはありません)
このように現物と先物に価格差が生じると、先物を売って、現物を買うという「買い裁定取引」が成立します。
なぜこのような取引をしようとする投資家がいるのか?
それは先ほど申しました「決まりごと」によって確実に利益を得ることができるからです。
先物価格と現物価格は同じになるのですから、翌年1月11日に現物が11000だとすると先物も11000円になります。
すると、上の取引の損益はどうなるでしょうか?
先物は10600円で売って、11000円で買い戻しますので
損益は10600円-11000円=-400円
対して現物は10500円で買って、11000円で売りますので
損益は11000円-10500円=+500円
現物取引で+500円、先物取引で-400円なので合計すると
「100円の利益となります。」
驚くべきことに、12月28日時点で将来の利益が確定しているわけです。
先物が先に上って、上のように先物と現物の価格差が生じると、先物の「決まりごと」を使って必ず利益の出る取引ができることが分かりました。
ということは、先物と現物が上のような状態になったら、あなたならどうしますか?
確実に利益が出るなら、同じことをやりたいですよね!
そうです!見つけたら必ずやる人がいます。利益が出ることが決まっているのですから。
すると、そのような人は、まず高い先物を売って、そして安い現物を買います。このように買い裁定取引のポジションを組むと現物は上昇します。
つまり日経平均は上昇するわけです。
ここで重要なことが一つあります。裁定取引のすごいところは、先物を売っていますので、同時に買った現物がいくら下がっても損することはないことです。
ですから、高値警戒感が出ていようが関係なく、心配なく買うことができます。
そして、現物の上昇は、裁定取引をしても利益が出るぎりぎりまで続きます。
(詳しくは裁定取引をご覧ください)
つまり先物と現物の差をいつも一定の値幅で保っておけば、理論的には現物はどんどん上がるわけです。
上がる理由は要りません。ただ儲かるからというだけです。
金融緩和期待も要りませんし、海外株高も要らない!
このようにスパイラル的な現物株の上昇をもたらすのが「先物主導」と呼ばれる現象です。
もうひと頑張り!
それでは、誰がこのような先物主導のを起こそうとするのでしょうか?
よく耳にするのが「短期筋が先物を買って、日経平均が上昇しました。」という解説です。
短期筋というのは、ヘッジファンドなど短期間の値幅取りを目的に売買を繰り返す人たちのことを指します。
多少難しい例になりますが、もう少し辛抱してください。
このような投機家は、少ない資金で大きな利益を得るために、先物取引やオプション取引のようなデリバティブ取引を多用します。
例えば、先々高くなりそうだと思った場合、オプション市場でコールオプションを買います。このコールオプションには権利行使価格というものがあって、
現物価格が10000円のときに1カ月後に満期が来る権利行使価格12000円のオプションを1円で10000枚買ったとすると、支払う代金は100万円です。
1か月後の満期のときに12000円以上にならないと価値がなくなってしまうのですが、逆に12100円にでもなれば、このオプションの価値は100円になります。
つまり1円で買ったものが100円になるのですから100倍になるわけです。
このようなオプションを持っていて、満期まであと1週間という時に、日経平均は11800円です。
あと200円以上上がれば、大きな利益を得るチャンスです。
こんな時先物市場で先物買いをして裁定買いを誘って、現物を意図的に上昇させようとする動きがあってもおかしくないと思いませんか。
以上の例は大雑把な、単純化したものにすぎませんが、先物を買って現物を上昇させたい理由は様々です。
先物主導については、先物が先に上がって、現物が追随していくということなのですが、裏側では裁定取引やオプション取引などを駆使して、ヘッジファンドなどの専門的な投機家集団が高度なシステムを使って自分たちの運用成績を上げるために、いろいろな仕掛けをしている現実があります。
一般投資家にとっては、相場の撹乱分子になって厄介な存在ですが、「先物主導」で日経平均が大きな変動を起こすことはたびたびあります。そんな時は「なんで!」とパニックにならないように、先物主導で大きな変動が生じる理由は、一般的な相場を動かす材料以外のところにあるのだということだけでも認識しておくといいと思います。